認知行動療法とは
考えと行動を動かし、心を動かす。
自分の「考え」「行動」のくせに着目し、そこを調整することで、メンタル全般の改善を図ります。
落ち込み・うつ状態のほか、各種の不安症など、幅広い範囲に応用可能です。
理論は自習しやすいですが、カウンセリングでは「実際に使える」ことの習得を目標とします。
もくじ
- はじめにー主流になりつつあるカウンセリング技法ー
- 治療モデルー考えと行動から、こころを動かすー
- 方法①考えを動かす治療(認知療法)
- 方法②行動を動かす治療(行動療法)
- 参考:その他の応用的な治療技法
- こんな不調に活用します
- 習得法:自習とカウンセリングの違い
- 一般のカウンセリングとの違いと共通点
- まとめ
はじめにー主流になりつつあるカウンセリング技法ー
近年、主流になりつつあるカウンセリングの技法です。
以前は、カウンセリングといえば「傾聴」、もっぱらカウンセラーは聞き役に徹して、話すことで気持ちを整理することを指しました。
その場合、実際の問題で悩まれている人には有効な一方で、うつ病の方で考え等にくせが生じている場合など、うまくいきにくいこと、時間がかかりすぎることがありました。
その問題を踏まえ、「考え方(認知)」や「行動」に焦点を当て、より積極的に介入しながら状態の改善を図る方法として、認知行動療法が生み出されました。
当初は「うつ病の人の考えのくせ」に焦点を当てていましたが、その後、不安症や強迫性障害などの多様なこころの病に応用できることがわかり、最近では、さらに幅広く、不登校の方のリハビリや、依存症治療などの分野でも、応用されるようになってきています。
ここ最近では、カウンセリングの中でも、必要に応じて、認知行動療法の技法を用いていくことが、スタンダードになりつつあります。
ここでは、主流になりつつある「認知行動療法」の理論や応用例などについて、全体的に見ていきます。
治療モデルー考えと行動から、こころを動かすー
動かしやすい「考え」「行動」を動かすことで、こころ全体を動かすやり方です。
認知行動療法では、脳の働きを、大まかに「認知(考え)」「行動」「体の感覚」「感情(気分)」の4つに分けます。そしてこれらは一見独立していますが、互いに影響しあっていると考えます。
たいてい、治療の目標は「感情(気分)」や「体の感覚(症状)」の改善ですが、この2つはなかなか意識的には動かしにくいです。一方で、そこに影響している「認知(考え)」や「行動」は比較的動かしやすいです。
その点を踏まえ、意識的に動かしやすい「認知(考え)」「行動」を調整することを通じて、二次的に、本来よくしたい「感情(気分)」「体の感覚(症状)」を、ひいては「こころ全体」の改善を図っていくのが、認知行動療法です。
そして認知行動療法では、以下に述べるような、「認知(考え)」「行動」を動かしていく技法があります。
方法①考えを動かす治療(認知療法)
考えのくせを知り、「別の考え」を探す練習を繰り返します。
代表的なものとして、考え方(認知)のくせを知り、それを動かしていく方法(認知療法、もしくは認知再構成)があります。
たとえばコップに半分の水が入っていたとして、「半分しかない」と考えると落ち込みますが、「半分もある」と考えるとうれしくなることがあるでしょう。これは、「物事への考え方(認知)」の違いで、感情(気分)が変わることの例です。
このような「出来事→考え(認知)→感情(気分)」の流れに注目し、自分の出来事への「考え」のパターンを知ったうえで、必要なら重点的に調整を図っていくのが、認知再構成です。
具体的には、程度に応じて、次の2段階で実践していきます。
①自分の考え方のくせを知る
これまでの「感情が動いた」時の出来事と「考え」がどうかを、多く振り返っていきます。すると、自分が出来事に対してどう「考える」か、そのくせやパターンが次第に見えてきます。まずそれを知れば、その後バランスをとるよう心がけるだけでも、改善する場合が多いです。
②別の考え方を探す練習をする
うつの人の「否定的考え」など、強い「くせ」の場合は、心がけだけでは改善が難しいことがあります。その場合は、より重点的に、(同じ出来事に)「別の考え方はないか」を探していく練習をします。(いくつか方法があります)
すぐには変わりませんが、繰り返しこの練習を続けていくと、次第に出来事に対して「くせ以外の考え方」をその場でできるようになってきます。そうなると、「考えのくせ」由来のこころの不調が、だいぶ改善します。
方法②行動を動かす治療(行動療法)
「行動」を動かすことで、意欲や不安の改善を図ります。
もう一つの方法として、「行動」を調整することで、結果として意欲低下や不安の改善を図っていく方法があり、「行動療法」と言われます。
代表的な行動療法として、次の2つがあります。
①行動活性化
意識的に行動・活動を増やすことにより、意欲・落ち込みの改善を図る方法です。うつ状態の人には「動く気がわかず、動かない」行動のくせがしばしば生じます。しかし、動くことが脳の刺激になり意欲を出す一方、動かなければ意欲が出ず、悪循環になってしまいます。その打開策として、「あえて動く」ことをします。
具体的には、まず自分の生活、行動パターンを見ていき、活動していないところを、なるべく「楽しめる」もしくは「達成感のある」活動に置き換えていきます。
②(系統的)脱感作法
不安な状況に「段階的に」慣らすことにより、不安の改善を図る方法です。パニック症・社会不安障害の方の治療などで用います。強い不安が出ると、その場を「回避」してしまいますが、そうすると慣れず、回避がどんどん増える悪循環になります。その打開策として、不安な場面に「あえて」慣らすことを通じて、結果として不安を減らしていきます。
ただし、急に無理をして慣らしにいくと逆効果になるなど、慎重に行う必要がある方法です。「徐々に」をしっかり意識すること、(診断がつく場合は)薬の治療をしっかりしつつ行うことなどが望まれ、カウンセリングも含め、何らか相談しながら行うのが安全です。
参考:その他の応用的な治療技法
状況などによっては、別の方法を組み合わせることがあります。
先の「認知再構成」「行動活性化」「(系統的)脱感作法」が、代表的な認知行動療法の技法ですが、細かくは、以下のような、応用的な方法もあり、状況などによっては使う場合があります。
●暴露反応妨害法
「強迫性障害」の治療に使います。確認がくせになる中「あえて確認しない」練習をすることで、それに伴う不安への「脱感作」を図る方法で、脱感作法と類似した方法です。
●問題解決技法
実際的な問題への悩みが不調の原因の場合に、それを論理的に分析し、解決することで、不調の改善を図る方法です。
●アサーション(自己主張訓練)
「主張できない」行動のくせに関して、「程よく主張する」ことを、反復して練習します。
●生活技能訓練
最近は発達障害の方に使うことが増えています。手本を見つつ、生活で必要なことを、パターンとして繰り返し練習し、身に着けていく方法です。
●マインドフルネス
今の状態に集中することで、感情に巻き込まれず、冷静に対処する方法です。反復練習が重要。単体での効果のほか、認知再構成などを有効に行う土台にもなります。
●ストレスマネジメント
ストレスの対処についての状況を見極めたうえで、ストレスの受け流し方や、対処・発散法の獲得などを図り、ストレスがたまりにくい状態を目指します。
こんな不調に活用します
うつ状態のほか、不安や対人関係の対策など、幅広く活用できます。
認知行動療法は、実際には、うつ状態のみならず、不安の改善、対人ストレスの改善など、幅広く応用することが可能です。代表的には、以下のような症状や状況に活用します。
①うつ病、うつ状態
落ち込み、意欲低下、不安など、各種の症状に対して、「認知」「行動」の双方から、取り組みを行っていくことが可能です。
②パニック症・社会不安症
強い不安が起こる場面に関して「(系統的)脱感作法」を行っていきます。また、不安になる「考えのくせ」への取り組みを、必要時並行します。
③不眠症
不眠にまつわる環境や考え方のくせなどを見極めたうえで、環境・行動の調整を行ったり、「不眠への考えのくせ」の取り組みを行うなどします。
④不登校
不登校に関連する様々な症状に対して、必要に応じ取り組みを行います。「自己否定的考え」への認知再構成、不安な場面への脱感作、生活の見直しを含めた行動活性化などを、必要に応じ行っていきます。
⑤HSP
「敏感さ」「疲れ切ってしまうこと」等への対処を、必要に応じ行います。不安・緊張へのリラックス法を並行した脱感作法や、「先回りして考える」くせに対しての認知再構成などを行います。
習得法:自習とカウンセリングの違い
「わかる」は自習で可、「できる」にはカウンセリングが有効です。
では、どのように認知行動療法を習得するか。学ぶためにはここ最近では自習用のわかりやすい本などの情報も増えてきています。一方で「実際に使える」ためには、本の情報だけでは難しい部分もあります。
①「わかる」→自習でも可
認知行動療法の理論や技法に関しては、初学者向けから専門書まで、幅広く情報を得ることができる時代になっています。初学者向けでもだいぶ理解できますし、より深く知りたい場合には、専門性の高いものに触れていくことで、だいぶ理解が図れると思われます。ただ、人によっては、読むよりも(カウンセリング等で)実際に聞いた方がわかる人もいるでしょう。
②「できる」→カウンセリングが有効
一方で、理論だけではつらさは改善しません。実際の生活や場面で活用できてこそ、効果を発揮します。この点に関しては、独学のみでは難しい部分もあろうかと思われます。その点において、カウンセリングを活用するのは有効と思われます。理想的には、理論は自習したうえで、まずは自分でやってみて、祖そのうえでカウンセリングで振り返り、修正を行い、再度自分で実践することを繰り返すと、一番習得が早いと思われます。
一般のカウンセリングとの違いと共通点
認知行動療法の方が心理士が積極的にかかわる傾向があります。
従来のカウンセリングと認知行動療法では、大まかに、以下のような違いがあります。
●従来カウンセリング→心理士は「聞き手」
従来のカウンセリングでは、心理士は聞き手に回り、ご自身が話し手になることが、主な営みになります。自由に表現が行える一方で、「聞くだけでほしいアドバイスがもらえなかった」との苦言をいただくことがあります。
●認知行動療法→心理士は「協力者」
一方で認知行動療法では、問題設定から考え方のくせなど、より積極的に心理士が介入することになります。いわゆる「聞き手」というよりも「(改善のための)協力者」のポジションになります。「話すことでの効果」は若干弱まる可能性もあります。
このように違いもあるのですが、「カウンセリング」の枠で行うこと、および関係性や交流が重要な土台であることは、両者共通しています。二者択一ではなく、状況等に応じて、双方の要素を調整しながら混ぜていくのが、現実のカウンセリングの姿だと思われます。
まとめ
「考え」「行動」を、心理士と一緒に整え、こころの改善を図ります。
認知行動療法は、「考え(認知)」「行動」の2つに介入することで、こころ全体の改善を図る方法です。うつ状態、不安など、様々な状態に対応します。理論は独学でできる一方、実践するには、関係性の整ったカウンセリングの形で行うと、有効性が高いと期待できます。
なお、当ルームでも、認知行動療法を取り入れたカウンセリングをお受けしています。もし認知行動療法を受けてみようとお思いの場合、下のボタンからすぐ予約を取ることができます。お待ちしております。
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監修者:春日 雄一郎(精神科医、臨床心理士、医療法人社団Heart Station 理事長)